模索の代償#9

2007年、夏。
僕の精神がしだいに
異常な方向へと向かっていきます。
離人症といって(のちに聞かされる)、
自分を取り巻く世界に
まったく現実感を感じる事が
出来なくなってしまったのが、
まずのはじまりでした。
目にするもの全てが
なんというか、まるで映画でも見ているような、
自分が自分じゃないような感覚に
陥ったのです。
思考は完全に停止し、
一日中、部屋でぼーっと一点を見つめたまま
動こうともしませんでした。
意識的に動こうとしなかったのではなく、
動けなかったのです。
そして、ふと我にかえると
今度は不安や悲しみや、憂鬱が襲ってくる・・・。
その時、自分自身の心に
一体何が起きているのか分かりませんでした。
まったく働かなくなった頭に喝を入れるため、
水をかぶったりもしました。
それでも意識や現実感がはっきりする事はなく、
一点を見つめてぼーっとしては
我にかえり、
不安や憂鬱に苛まれ、
それから逃れるように思考は停止し
また一点を見つめては・・・、
そんな状態を繰り返していくうちに、
今度は呼吸が出来なくなり、
その溺れるような恐怖から
パニック発作まで起こるようになり、
さらには、
人の言っている事の意味が
全く理解できなくなっていきました。
目にするもの全てがあやふやなものに見えて、
そう、まるで
外界と完全に遮断された
抽象画の絵の中に入り込んだような
そんな精神世界をさまよいはじめたのです。
ブレーキの利かない車の
アクセルを目一杯踏み込み、
ギアは壊れ噛みあわず、
猛スピードで空回りをする僕の精神。
その状態を一言で言い表すなら、
まさに廃人・・・。
こうして僕はようやく、
精神科の門を叩く事となったのです。
つづく・・・。