模索の代償#5

引き蘢っている期間というのは、
まさに苦悩の日々でした。
苦悩と言う名の黒い海で
ねっとりとした波に飲まれ
溺れているような毎日でした。
どうあがいても
理想とする自分の姿に近づけず、
TVの中では、あいもかわらず
かつて一緒にライブをやった連中たちが
華やかなショウビズの世界で
活躍しているというのに、
僕は、真っ暗な部屋で
誰とも口をきかず、
同居していた両親とも
一切口をきかず、
日がな
ベッドの中に潜り込み
窒息しそうにもがいていました。
ただ無駄に時間だけは
足早に僕の生ける屍を踏みつけて
通り過ぎてゆくばかり・・・。
人間、何かを欲するという事は
すべて苦悩へとつながり、
苦悩するが故に何かを欲するものだと、
そう悟ったのも
この頃です。
こうして、
沈黙と言う名のアリ地獄の深みにはまり、
全てにおいて満たされないまま、
2年ほど引き蘢っていたのです。
引き蘢りはじめておよそ2年。
ある日、
相も変わらず
ベッドの中で苦悩にうずくまる
僕の心の中から、
突然とある言葉が
きこえてきました。
いや、湧き出てきたのです。
「暗闇の中だからこそ 光は見つけられるから
そう 誰よりも簡単に・・・。」

この湧き出てきた言葉は、
本当に光って見えました。
そして堅く閉ざし続けてきた
僕の心の扉を照らし出し、
その輝きに誘われるかのように
閉ざしていた心の扉を
少しずつ開かせていったのです。
僕の心の扉が
徐々に開かれていくにつれて、
僕に今すべきことが何であるかが
見えてきました。
そうだったのです。
僕の心の扉を
照らし出していたと思っていた、

「暗闇の中だからこそ 光は見つけられるから
そう 誰よりも簡単に・・・。」

という光の言葉は、
僕の心の扉を照らし出していたのではなく、
この先、僕が進むべき道の
方向を照らしていたのです。
ちょうどその頃というのは、
TVのニュースなどで
「ひきこもり」という社会問題を
よく取り上げていた頃でもあったので、
たびたびTVで引き蘢る若者の姿を見ては
共感を抱いていたものでした。
同じひきこもり同士、
常につきまとう葛藤と苦悩の辛さは
自分の事のように分かります。
そう。だからこそ、
引き蘢ってしまうような
心の闇を抱き続け苦しむ人に向け、
僕の心の中から湧き出てきた、

「暗闇の中だからこそ 光は見つけられるから
そう 誰よりも簡単に・・・。」

この言葉を携えて、
歌を唄おう・・・。
心の闇を迷う人たちに
往くべき道を知らせる光となって、
僕は唄う人になろう。
そう思い立ったのです。
ところで、この
「暗闇の中だからこそ 光は見つけられるから
そう 誰よりも簡単に・・・。」
というフレーズは、
拙作「LUMINARY」で聴けます。
つづく・・・。