模索の代償#2

バンドをやっていた頃、
その解散間際、バンドのメンバー間の
仲は最悪な状態でした。
裏側では険悪な状態のまま、
華やかなライブハウスのステージでは
それを見せる事無く、
まさに演じていました。
バンドは解散します。
直接の原因は、
僕がとある病気に罹り
入院してしまった事だといってもいいと思います。
僕が罹った病気というのは、
「クローン病」といって、
大腸や小腸に炎症や潰瘍が出来、
下痢や下血を繰り返す
国の「難病」にも指定されている病気です。
この病気の治療法はありません。
今現在も治ってはおらず、再発しないように
節制した生活を余儀なくされています。
実際、僕はこの病気が原因で
2回手術をして、腸の一部を切っております。
この病気は、
腸に炎症や潰瘍が出来るという
性質上、
食事をする事はままなりません。
基本的に、食事は出来ません。
その代わりに一日に必要なカロリー分を
毎日薬を飲んで補う、
そういう病気なのです。
正直、そのような体では、
新しいバンドを組んで
再び精力的なバンド活動をするのは、
不可能のように思えました。
だけど僕は、もう音楽が出来ない
などという事を認めたくなかったのです。
いや、認める事が出来なかったのです。
その当時は、
ヴィジュアル系のバンドブームというのは、
下火になりつつある時期でした。
プロデューサーが歌手に曲を唄わせる、
そうした形態の音楽が主流の時期でした。
そういうこともあって、
過酷なライブスケジュールから解き放たれ、
病気の再発のリスクの少ない
パソコンを使った作曲に
僕の意識が向くのは自然の流れでした。
バンド解散後、
いろいろな、いわゆるヴィジュアル系の
ミュージシャンの方から、
うちのバンドに入ってくれという
お誘いも何度も受けましたが、
バンドをするという事自体に
古さと格好の悪さを感じていた当時の僕は、
どれも全て、お断りして
パソコンに向かって曲ばかり作っていたのです。
ちょうどそんな頃、
以前、僕の作る曲に一目を置いてくれ、
バンドのマネージメントをして頂いていた方から、
一本の電話が入ります。
その方の話の内容は、
すぐにでもメジャーに行けるバンド(多分ヴィジュアル系)を
組ませたくてメンバーを集めているので、
僕にギター兼コンポーザーとして
一緒にやってくれないかというという、
今考えれば、非常に美味しい話しを頂いたのです。
しかしながら
僕自身、腸に難病を抱えている状態でもありましたし、
なにより、
パソコンで好きなように曲が作れる自由さに
味をしめ、
そしてその当時、時代遅れになりつつあった
ヴィジュアル系のバンドを
また再びやるなんていうのは、
僕の中では考えられなかったのです。
井の中の蛙、お山の大将で
天狗になって調子に乗っていた僕は、
その恩人からの美味しい申し出に対して、
「これからは自分一人で曲を作ってやっていくから」と、
愛想も無く無下にお断りしてしまったのです。
なぜなら、
その恩人の方自体が
以前から僕の曲作りのセンスを買ってくれている事は
知っていたので、
わざわざ時代遅れのバンドなんかやらなくても
僕がパソコンで作った曲を聴かせれば、
すぐにメジャーへの足がかりを作ってくれるものだと
そう勝手に思い込んでいたからです。
その後、1年弱ほどしたのちだったでしょうか。
僕は意気揚々と
自分が作った曲をその恩人の方に
聴かせにいきました。
その恩人は
そうした甘い考えの僕の曲を聴き、
開口一番、
冷たい物言いでこう言われたのです。
「こんな曲じゃ、全く使い物にならないよ」
僕の出ばなはくじかれました。
確かに、今思えば
クオリティーに問題があった事は認めます。
しかし、自分の才能を
あまりに過信し過ぎていた僕にとっては、
その「使い物にならない」という言葉は、
死刑宣告にも似た言葉だったのです。
その後、バンド時代に培ってきた
人間関係の繋がりが、
どんどんと離れていきました。
自分からも離れていったという事もあるし、
実際のところ、
僕が属していたヴィジュアル系のバンドの世界では、
もう僕は過去の遺物に他ならず、
もう用のない人間になっていたのです。
つづく・・・。


“模索の代償#2” への6件の返信

  1. SECRET: 0
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    曲が良くなかったというわけでなかったと思います。
    自信満々でいた才能を否定されたお気持ちだったのでしょうか。
    激震が身体中を巡ったのですね。
    病のこと話してくださり、ありがとう。
    わたしのごく身近に治療法のない病の者がいます。

  2. SECRET: 0
    PASS:
    何というか、当時の僕にとっては
    音楽=自分みたいなところがあったので、
    それを否定されたという事は、
    自分を否定されたと同じように捉えてしまったのだと思います。
    >わたしのごく身近に治療法のない病の者がいます。
    そうなんですか。大変ですよね・・・。
    何といっていいか分かりませんが、
    少しでも症状が和らぐ事をお祈り申し上げます。
    難病持ちにしか分からない辛さってありますから。

  3. SECRET: 0
    PASS:
    これまた
    凄く共感です…バンドや音楽の事ですが
    しかしながら
    精神の病だけでなく
    クローン病という難病とも戦っていたのですね…
    国の難病…心が痛いです
    音楽が出来ない…を
    認める事が出来なかった…
    涙が出そうになりました
    つづきが
    とても気になります…

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