愛する人

S.Q
愛する人を失った
喪失感から、
この世の全ての物事から
断絶したい衝動に
駆られる事はままあることです。
その人にとって
愛する人とは
世界であり、
唯一の現実だったのだから。
そんな時は
心疲れて、
冷静な判断力を失っているものです。
ならばいっそのこと、
心癒えるまで
自分の世界に
引き蘢ってみるのも悪くはありません。
一見してそれは
消極的な行為のように思えるのですが、
長期的に見て
積極的で有益な沈黙であるのです。
ただしかし
自分の世界に籠る時、
そこに恨みや憎しみまで
持ち込まない事が重要です。
そうしたネガティブな
心境まで持ち込んで
引き蘢ってしまうと、
心の闇に取り込まれ
苦しみだけが心を縛り
本当に自身の世界という殻から
出ていく事が出来なくなるからです。
引き蘢り、
自身を省み、充分に哲学をする事は
むしろ人生にとって
有益な事です。
しかし、
闇を抱えたまま
引き蘢る事は
かえって心の傷を拡げ
心の癒しを得る事が出来ないのです。
故に、去って行った人の事を想って
引き蘢る時は
決して相手の事を恨まず、憎まず、
清々しく相手の存在を手放した上でないと
心が癒えるどころか
かえって病んでしまうのです。
心の「闇」が「病み」である所以は
そうしたところにあるのです。