受容に属す

昨日の記事の
補足、補強の意味合いもある話なのですが、
善と悪の許容の問題。

善と悪の定義は
それぞれどの範囲で許容されるのか。
そしてそれは誰が正しいと決めるのか。

もしかすると、この答えは
比喩として仏教でいうところの
「六道」という観念が
その所在を示唆しているのかもしれません。

例えば、
それこそまあ、
明らかに暴利を貪るような輩は
無条件に悪と断じていいでしょう。
けれど、
安楽死に関する諸々の問題に対して人は
その善悪を未だ推し量ることができずにいます。

生きものの生き死にの定義を踏まえて
もっと踏み込めば、
それこそ食肉用の家畜を生産することは
殺戮を生産していることであり、
肉食は、その殺戮に加担しているのだと
咎められることへの正当性などは
完全にほとの世界から
「無いもの」とされています。

一方で、人を襲う熊が
住宅街に現れて、住民を守るために
射殺したという場合はどうでしょう。

不治の病を引き起こすウィルスを
撲滅したとしたらどうでしょう。

これらは人間の視点から見れば
正義ですが、
大自然の摂理の観点からしたら
果たしてその人の振る舞いは
完全に正当な正義と言えるでしょうか。

人の意識下では
善悪というものは点在する島のように
まだらで、ともすれば
関連性に乏しく、また
整合性すら欠いているものです。

もしかすると、
善悪という定義を持ち得るのは
人間だけなのかもしれません。
そしてその人間特有のものであるかもしれない
善悪というものは、
実に人間にとって都合のいいように
時と場合、あるいは時代によって
いかようにも変化していくものなのではないでしょうか。

そしてそもそも、
人の考えるところの善悪というものは、
人のエゴの産物なのかもしれない。

それでも悪が存在するのは
人はその外的世界を
エゴのフィルターを通して
認知しているから生じるものなのではないか。

ここでいう悪というものは、
道義上、倫理上の悪というより、
人が考えうるあらゆる
ネガティブな感情や評価全てのことを
指してもいいかと思います。

この悪、つまりネガティブな定義を持つものを
忌避の対象として捉えることで
果たして本当に人は
苦悩から脱却できるのだろうかという
疑問も生まれてきます。

昨日の記事のように、
強者と弱者という立場の
差によって成立している構造の世界を生きるものは、
自分より強いものをスポイルしてしまうと、
相対的に自分が強いものの役割を振る舞うように
なってしまうように、
相対的な視点を持つ限り
相対性の世界から抜け出すことができないのだから、
苦悩の脱却とは
安楽への帰還であると
ここでにわかに結びつけるのは早計でしょう。

よく自己啓発などにはまってしまっている人は
まるで呪詛や念仏のように
「ポジティブ、ポジティブ」と口にしますが、
これは仏教の六道の世界観で言えば
「天道の人」と言えるのかもしれません。
願望達成に関して言えば
間違いなく未然の状態にある人が陥る世界なのでしょう。

天の道と聞くと、良いもののように思えますが、
その実態(この定義上では)は
成長(解脱)もせず、また煩悩からも解放されない、
そういう心的光景のことを
天道というらしいのですが、
ここは間違っても人の精神の到達点ではないと思えます。

そして、
苦も少ない代わりに、
何が本当の楽であるのか想像もできなくなった日本人は、
さしずめ「天道の人」なのかもしれません。
決して永遠に座する場所ではない。

さて、ここで冒頭の
善悪の許容の線引きについて
話を戻すなら、
上記のように考えていくと、
おそらくその両極の線引きは
個々人の内的世界の状態によって
いかようにも変化するものであるがゆえに、
その定義の所在もまた
仏教の六道的な輪廻の世界感のある
場所に属するものなのかもしれません。

そして、ものの善悪が
人のエゴの産物であるのであれば、
繰り返す輪廻の内側にある
仏教でいうところの、その「六道」もまた
エゴの境界の内側の世界を説明した
世界観のことを指しているのかもしれません。

そして人の心の成長や進化というものは、
何かを捨てて、何かを残すというものではなく、
それこそ六道的に言うなら
その六つの世界(天、人、修羅、畜生、餓鬼、地獄)
全て丸ごと成長させていくことであり、
それを引き上げることのできた精神の主体の所在は
六道の外側に属しているのかもしれません。

昨日の
「悪人じゃないから、まあいいか」
で言うところの
悪人の定義、視点とは、人を超えたところにあるのです。
と同時に、
悪人という存在は実はなく、
またともすれば人の定義するところの
「正義」でさえ幻想なのかもしれないと
言えるのかもしれません。

そして拒否という存在は成立せず、
あらゆるものは
受容に属するものなのです。