楽園時代の到来

今の時代、
Youtubeなどの動画サイトで、
古今東西、様々な音楽を聴くことができます。

まず、聴けないものは一切皆無とまでは
言い切れなくても、
ほぼ、すべての音楽は探せば聴けます。

そこに加えて、
人間自体がもう、新しい音楽を作る力を失ったというか、
そもそも、考えつく音楽のバリエーションは
すべて、現実の世界で表現され尽くしたということもあって、
この先、永劫に流行り廃りはあれど
こうしたサイトのコンテンツの中に
「前代未聞のそれ」が加わることは、
もうないのかもしれません。

つまり、この状況を簡単に言うなら、
「すべてがここにある」と言う状態と言ってもいいでしょう。
すべてがあるから、つまり、無いものがないのだから、
とりたてて、「新しい何か」を生み出す必要がない。

僕が感じる、今時の音楽の消費動向というのは
そのような印象です。

例えば子育てがひと段落したような、
現在、ある程度年齢のいっている世代からすれば、
結局、若かりし頃に聴いて、演奏していた音楽が
一番良いよね、と帰結して
コピーバンドをやり始める人は今、ものすごく多いですし、
若い世代(20代とかの)にしてもまた、
動画サイトに古い音楽も新しい音楽も
一律に見つけることができるがゆえに
受け取る感覚もフラットだから、
意外と「使い古されたもの」であっても、
「現在の市場」ではあまり流通していないものであれば、
逆にそれが一種の「サブカルチャー趣向」を
くすぐるのだろうな、と。

「全部あるから好きなものを持っていきな」
(ただし、ここにないものは、どの世界にも存在しないものだけど)

若い世代にも、そして中高年世代にも
共通して言えることなのですが、
もう音楽というものは
『無から有を生み出す』ものではなくなった
ということ。
すでに有るものを楽しむのが音楽。

良い悪いでもなく、皮肉でもなく、
もうそういう時代なのだと思えます。

洗濯機や冷蔵庫と一緒。
「ものの個性や斬新さ」は問われることなく、
そこにあるもの(量販店に売っているもの)を、
持って(買って)くるだけ。
それだけで、一切の不足はない。

こういう世界は、今回は音楽になぞらえて説明はしていますが、
他の分野でもじわじわと
現実になりつつある世界だったりもします。

生命維持に直接実害のない
平たくいうところの「趣味のコンテンツ商品」から順に、
すべてが出尽くして、
そこにあるものだけで満足して楽しむ。
これは長い時間をかけて
一定の豊かさを得た社会から、
人々はそういうライフスタイルを生きるようになり、
やがてそれが「国家としての」体制に
反映されていく気がします。

『すべてが等しくここにある。
人民はこの世界の維持のためだけに労働すればいい』

電気、水道、ガスのようなライフラインに始まり、
今は通信のインフラもそのような感じです。

やがて、こういう社会主義のような生き方に
親和性の高い世代が世界の体制を占める時代が
やがて来る気がします。

今の若い世代というのは、
そういう来るべき時代の片鱗を
垣間見ている世代なのです。

彼らはエデンの園の
アダムとイヴです。
文字通り、不足のない楽園の。

すべてが満ち足りていれば
知恵も必要はありません。
強いて必要な知識、術といえば
このエデンを管理維持するためのそれと、
知恵の実を食べてはならないという戒律の実践だけ。
しかもそれらは、平等に享受することができるのだから、
知恵というもの自体が有って無いような概念としてでしか
それを認識することはできないでしょう。

あと10数年もすると、もう少し
来るエデンの姿が見えて来るようになるでしょう。
そこで人は、エデンを受け入れるか、拒絶するかという
最終的な「試し」の岐路に立つことになるでしょう。

楽園で死んだように平たく生きるか、
あるいは
穢土において産みの苦しみと戦いながら生きるか、
と。

僕のようは旧い人間からすれば
人間にとってエデンに至る道というのは
明らかにバッドエンドにしか見えないのだけれど・・・。

「差」のあるところに力が生まれると思うのだけれど。

とっくの昔に流行って、廃れたものを
あれこれ引っ張り出して
こねくり回して遊んでいるだけで、
そこから何か真新しいムーブメントを
構築しない(すでに全部があるから、する必要もない)
人たちというのは、
僕からすれば、
良くも悪くもやっぱり、
アダムやイヴそのものであり、
また、彼らの住んでいるところはすでに
楽園たるエデンであるのだと思えます。

と同時に、僕らおっさん世代というのは
明らかに、イヴ(本当にアダムではないと思う)をそそのかして
知恵の実を食べさせる蛇以外の何物でもないな、とも。

どういう世界を構築するのも良いだろうさ。
けれど、普遍の真理と思えるものを選びとろうぜ。
陽は沈み始めると、あっという間だぜ。