「苦」に蓋は要るか?

人は恐らく、
それこそ人が人としての精神を宿して以来、
もしかすると何万年と言う単位で
「苦」を克服する事のみを考え
進化してきたのだと思います。

ここで言う「苦」とはもちろん、
艱難辛苦のと呼ばれるような「苦」も然り
また、もっと些細で身近な
「苦痛」とまではいかない、
ちょっとした「不便」や「不快」というものもまた
「苦」の一つとして捉えてお話しします。

そうした浅いものから深いものまで
あらゆる「苦」を乗り越える為に
人は「苦」を見続けてきた。
だからその「苦」を乗り越える術を身に付けてきました。

それは知恵であり、
同時に技術の進歩であったのでしょう。

「苦」が無くなる事が「楽」である。
「苦がなくなる事」を求めていたのに
いつしか「楽」を求めるようになっていき、
「楽」の洪水に呑まれてしまって、
むしろそれこそ「楽」の状態が普通の状態であると
錯覚してしまうのです。

きっと現代人、特に先進国の現代人のような気がします。

このように「苦の不可視化」をするようになっていく
人の社会をとある高名な方は
文明が「無痛化」へ向かう事への危惧として
訴えてもいます。

結論から言うなれば、
人はこの世から「苦」たる外的要因の
一切を取り除いたとしても、
極限にまで高められた科学技術をもって
そのあらゆる一切を取り除いたとしても、
それでも「苦」は存在するし、
人の精神は何かにつけて
どこかしらに「苦」を認知するのだと思います。

そもそも「苦楽」という概念自体が
相対的な評価で認知されるものであるのであるし、
「苦」と「楽」の境界、しきい値というものもまた
人それぞれ考え方によって違うのです。

この「苦楽」という陰と陽という極性、
対称性を持つものであって、
何かにつけてそれは
「苦」なのか「楽」なのかを問うてくる
そういう性質であるのであるから、
「楽」を求めれば「苦」から逃れられるというものではないのです。

「楽」の方を向いてそちらへ歩いても
その真後ろには必ず「苦」はついてくる。

「楽」を求めることで「苦」が中和される訳ではありません。

おおよその人は
「楽」を求めて「苦」に蓋をしているだけなのでしょう。
故に、蓋をしているだけで
「苦」の根本は何も解決はしていないのではないのでしょうか。

恐らく先の「文明の無痛化に対する危惧」を説いた方は、
恥ずかしながら詳しくその本を拝読させて頂いた訳ではないので
ずばりそうだとは言い兼ねますが、
このような問題を指摘しているのかも知れません。

いずれにしろ、
「苦」に蓋をする為の「楽」であって
それはそれで良いのでしょうか。

なんとなく物の流れとして、
ここは一つのカウンターとして
『いや、苦の本質を今こそ見極めて
それを解決し克服すべきである』
という考え方をするべきではないかと錯覚しがちですが、
実はそうではないような気もします。

思うに、蓋を出来るだけの「苦」があるうちは
まだ人生は恵まれているのではないでしょうか。
蓋をしたいような「苦」があるという事は
その「蓋」たる「楽」がある訳で、
それを恵まれていると呼ぶのではないのかと考えるのです。

あくまでこれは「推論」としての
イメージでしかないのですが、
恐らく人から「苦」が消えた時、
同時にその人の精神から「楽」も消えるのではないでしょうか。

人が「より人らしい」人生んを生きるにつけ
最も怖いと感じるのはここだと考えます。

苦も楽もない生き方。

このような生き方をして
何に人生の意味を問えと言えるのでしょうか。

そもそも人間の文明というものは
「苦」に蓋をする為に
知恵や技術を身に付けて今に至るのです。
「苦」を不可視化するための
「楽」という蓋をより完璧なものにするために
人の叡智は育ってきたのです。
それもひとえに「苦」を見えなくする為に。

苦も楽もない生き方をしている人間は
何も考えられないでしょうし、
それはつまり学べないという事であり
また、何も生めないという事なのだと思います。

何も学ばず、生まない人は
ただ消費するだけの一生を全うする事に
何の疑いも無くなってしまった文明。

これこそ「人間文明の斜陽」と言っても
過言ではないのかも知れません。

本当は、理想を言うのなら、
「苦」に対してのフィロソフィを
熟考出来るのがベストなのかも知れませんが、
それを考えるだけの
世界観をもっていないのであればまだ
「苦」を塞ぐ蓋について思いを巡らしていた方が
まだ「人」を保っていられると思います。

人類は一つ間違うと
先の「無痛化文明」を通り越して
「無感化文明」へと向かう怖さがあります。

科学技術に「感じる」ことは
全て丸投げしてしまった人間は、
もう人間と呼べない気がするのは
僕がまだ俗物であるからなのでしょうか。

人であるのであれば
「苦」を見よ。
振り向けばそこに必ず
「楽」があるのだから。
そして「楽」を行け。
しかしその背後には必ず「苦」があることも
忘れてはいけない。

不可視化出来るだけの「苦」がまだ
心にあるうちに。

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