人間の条件 – ハンナ・アレント

ハンナ・アレントという女性の政治思想家の1958年の著作。

第二次世界大戦が終わり、
その後の自由主義と社会主義との冷戦が
より深刻になる中で刊行された本です。

僕は元々、この本を今作っているアルバムの
資料として読んだのですが、
読んでみると、そういう自分の作品の資料以前に、
一つの哲学書として非常に興味深い本でした。
なんというか、
僕が個人的に日々生きるにあたって感じる、
この世の中の「生きづらさ」の正体は
この著作の中に潜んでいそうな気がする。
そんな本。
そしてこの本には
今の時代にあって読むべき言質に溢れている、
そんな感じがします。

この「人間の条件」をざっくりと内容を説明すると、
著者のアレント曰く、
人間の「活動力」というものがあって、
僕はこれを個人的には「営み」と理解したいのですが(違うかも?)
この「人の営み」を
『労働(Labor)』、『仕事(Work)』、『活動(Action)』の
三つの要素に分類して、色々と説く、という内容。

上述の三要素もまた、今の時代の言葉感覚としては
僕個人の見解として、ちょっといささかのギャップを感じるので、
より現代的で、平易な表現の言葉で当てはめるなら

・『生活していくために給料をもらうための<労働>』
・『本当にやりたい天命のような<仕事>』
・『実際に日常での自分の振る舞いであるところの<活動>』

という感じかなと、僕は理解しますが、
まだ読了したばかりなので、あまり堂々と言い切れない・・・。

まあ、こうして自分なりの理解で「人の営み」を
三つの要素で書き出してみると
なるほど、僕が書いたところの注釈自体が
アレントが、本来太古より人の人生の中で
活動>仕事>労働
出会った
この三要素の比重が、
労働>仕事>活動と
明らかに現代では転倒、つまり逆転してしまっていることに
気づかされます。

今の時代というのは、
『労働(Labor)』のみが絶対的な価値基準になっていて、
人はそれを矛盾なく、あるいは違和感なく
咀嚼するために現代人は
大量消費のライフスタイルを選んだのでしょうが、
この点についてアレントは
特に批判はしてはいませんが、
この著書の行間を感じるに
あまりいい顔はしていません。

・・・、こんな理解でいいでしょうか?この本は・・・(笑)

いや、この本は分かりにくいのです、実際。
この本の翻訳をした訳者も
あとがきの中でそう言っているくらいだから
そうなのでしょう。
この本を論理的に理解しようとすると、
掴みどころがなくて、言いたいことが
ぼんやりとしか入ってこないかもしれない。
けれど、
感覚で「感じる」なら
彼女の言いたいことというのは
なかなかに「ごもっとも」な点も多くあるし、
上述したように
僕の「人生の生きづらさの正体」の影が
ここにはあるし、
今、このコロナ禍真っ只中のご時世にあって
色々と浮き彫りになりつつある社会問題を予言している、
そんな感じもしなくはない、・・・気がする・・・。

それはきっと、この本が書かれた1958年時点で、
世界がこのままで行くと、
ともすればこうなるだろうという
未来予測の視野に置かれた
アレントからの「置き手紙」のように感じました。

今の、こういう世の中、社会になった
元々の構造を読み解こうとするなら、
非常に鋭い示唆に富んだ著作なのでしょう。
それゆえに、
「読みにくい」と言われながらも
名著と称されるのではないかと思えます。


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