Bleue – Keren Ann

今年(2019年)の3月にリリースされた
ケレン・アンのニューアルバム。

ここ2作ほど、
ロックやモータウンのテイストが強い
おそらく、彼女自身が青春時代によく聴いていた
あるいは、テレビやラジオでかかっていただろう、
そんなテイストの作風のアルバムが続いてからの
新作は、僕が感じるに
原点回帰のようなアルバムではないかと思いました。

原点と言っても、商業的に「売れること」を期待された
デビュー当初、いわゆる「ロリータ」の頃ではなく、
アーティストとしての主張を許されるようになった(気がする)
4thアルバム『Nolita』あたり。
あの辺の感触を持ったアルバムが、
この『Bleue』です。

上述のように、過去の2作、たとえば
『101』(2011年)や
『You’re Gonna Get Love』(2016年)の
60年代のモータウンサウンドから
80年代前半ごろの初期のニューウェーブサウンド
という「味」を感じた僕にとって
それは非常に美味だったので(まあ、同じ世代だし)
今作も、そういう路線で来て欲しいと
希望しがちなところだったのですが、
ここで1度、「ケレン・アン」という原点に立ち返る
という戦略は、正解なのだと思えます。
そういうのは3回も続けては不要でしょう。

ゆえに「結局、私のサウンドはこれだよ」と
釘をさしてくれるアルバムなのでしょう。

よく、「原点回帰」と評される作品というのは、
ともすればネタ切れの二番煎じのような印象で、
さして褒めるところがないプロダクトに対して
差し障りのない言葉でお茶を濁す時に使われがちなのですが、
この原点回帰(と言っても僕がそう思っているだけなのだけれど)は
バージョンアップしてるタイプのそれなのだと思えます。

おそらく、
それまでの「ケレン・アン」のサウンドからは
整合性の面から取り入れることをためらわれた
彼女の中で原体験というか、ルーツとして
感覚的に存在していたロックテイストを、
自分の音楽の中で矛盾なく
統合することができるようになったことが、
「原点回帰」的でありながらも
フレッシュさが維持できている秘密である気がします。

3rdアルバム『Not Going Anywhere』のような
繊細な透明感や清涼感のある
サウンドではないのかもしれませんが、
それでも彼女のアルバムすべてを聴くと、
まさしくこのサウンドの質感は
昔からずっと大切に維持されている
「ケレン・アン」サウンドなのでしょう。


コメントを残す