現実という虚像

世の中というのは、
同じ共通した世界を生きている筈なのに、
何故だか
幸せな人と
不幸せな人がいます。
同じものを見ているのに、
それを心地よく感じる人もいれば
不快に感じる人もいる。
それは
同じ温度の温泉に入っているのに、
お湯を
熱いと感じる人と
温いと感じる人がいるのと
どこか似ていないでもないです。
結局人は、
自分の目線でしか
世界を評価出来ないのです。
そして
そこに見えた世界に対して
誰からも
全面的なコンセンサスを
得られる事は決してないでしょう。
忘れがちな事ですが、
この世界に対して人は
実のところ、
何一つ、誰として
本当の意味での共通認識を
共有していないのです。
心理学などでも言われる事ですが、
人は世間のあらゆる雑多な物事たちの中から
自分にとって都合の良い物事や
興味のある物事、
気にしている事柄、そうしたもの以外は
認知しないように出来ているのです。
人の五感は
不要な情報は省き、
身の回りの必要な情報だけを
表層的な意識に送って、
それを意識が認知しているわけです。
もちろん当然、
必要な情報というものは
人によって各個に違います。
という事はつまり、
人がそれぞれ認知している世界もまた
各個に違うわけです。
だから同じ共通の世界に生きながら、
そこを
幸せと感じる人と
不幸せと感じる人が出てくるのです。
ここでひとつ考えなければなりません。
今、自分が認知している現実は
あくまで今、
自分のみが認知しているだけであって、
決して
他人にとっての現実ではないのです。
今、自分が見ている現実は
自分にとって
興味があったり、
気にしていたりする事柄を
無意識に選んで取り上げて
認知したことで見えている、
いわば形成された
現実であるという事です。
だから考え方が変われば
現実も変わる。
物の見方が変わったら
なんだか吹っ切れました
という事は
生きていればよくある事です。
吹っ切れた人にとって
実際に、現実の世界が変わったのです。
例えば同じその人であっても、
その人に
恋をしている時と、
何も興味を感じていない時では、
その人の人となりや評価が
全く違うものに変わって見えるのと
同様の事と言えるでしょう。
ならば現実とは何なのか。
結局のところ
目にしている現実は
思い込みの産物であるという
答えに行き着いてしまうのです。
世界の総人口70億人、
70億種類の壮大な思い込みで
世の中が形成されている
ようなものなのです。
そんな人の心たちで作られているから、
人の心が移ろえば
時代も移り変わる。
ならば結局、
人の外的世界には
そもそも絶対的真理など存在せず、
ともすれば
実体すら持たない
ものなのではないでしょうか。
外的世界に絶対と言えるものは
何一つありません。
常に流動的でつかみ所が無いものなのに、
何故か人は
それこそが揺るがない
自分の絶対的現実であると
思い込んで、
それを拠り所にしようとする。
でも外的世界は
常に移り変わってゆくものだから、
寄りかかろうとしても
すり抜けてしまう。
まるで
手に取った水がそこから
流れ落ちていくように。
だから必死でそれを、
いつかは消えてゆくであろうそれを
追いかけようとするから、
人生が大変に思えてくる。
人生が大変に見え始めると、
見るもののあらゆるところに
障壁を見いだしてしまい、
気がつけば本当に
人生が大変になってしまう。
最初は些細な思い込みだった筈なのに、
知らないうちに
それが唯一絶対の現実になって
自分の本当に思っている事よりも
目の前の思い込みで
見えている現実の方が
正しいと考えてしまう。
そして現実の波に溺れ
あちらへ、こちらへと
流されるままに漂い続ける人生を
持て余したまま、
いつしか心の帰る場所を忘れ、
自分が何者であったのかさえも
忘れてしまう。
忘れてしまったものを
思い出す気すらなくなるほど、
現実に忙殺されてしまうと
人は本当に
心を失ってしまうのだと思います。
別にこれを機に
世の中を俯瞰して
あらゆる物事をフラットに
認識するべきとは言いません。
なにかしらその人にとって、
選り分けられた現実を
集中して見る事が必要なのだろうから。
ただ、
自分の目の前だけに広がっている
現実だけを見て、
世界の全てを知った気になってはいけない。
世界の全体像が
自分の認知を越えた部分にまで及んで
存在し、
自分の知り得ない物事を
別の人が見ているのだという事を
理解出来るだけの
想像力は持っておいた方が良いと思うのです。
そしてその別の現実もまた
真実であるし、
見たい現実があるのなら
いつだって
その現実に乗り換える事が出来る、
そう思う事できっと
あがなえない、虚像の現実の枠を越えて
実像の現実の世界が
見えてくるのかもしれません。
自分の目から見える世界には
本当は
自分たった独りしか存在していないのです。