考えるな、感じろ。でもちょっとは考えよう

『考えるな、感じろ』
これは古いカンフー映画の中に出てくる
台詞だそうです。
感じる事は大切です。
きっと世の人が思うよりずっと。
だけど「感じられない人」も多いのも事実。
「感じられない人」にとって
今の世の中はきっと閉塞感に満ちている事でしょう。
とかく世の中は
合理的、理性的であることを
重んじ、尊ぼうとする傾向にありますが、
合理性や理性を持つだけで
日々の生活を円滑に過ごす事が出来るかと言えば
実際はそれとは全く逆で、
実際の世の中には
不条理や感情論が満ち満ちています。
それは今にはじまった事ではなく、
人が社会を形成する以前から
根本的に人は不条理で感情的なものなのです。
そもそも人という存在すら
突き詰めていく過程の
あるいち段階に於いては
それは実に非合理的な存在であると
規定しなければならなかったりします。
要するに、
人そのものが合理的、効率的に
並べられるものではないのに、
そこに合理性、整合性という
鋳型を持ち込むと、
普遍的に根本に非合理性をもつ
人にとってそこは居心地が悪く、
やがて壁にぶつかってしまうのです。
確かに初期の段階において
合理性や論理性などといったものは
秩序をもたらし、
集団が安定するかもしれませんが、
合理性、論理性にいつまでもこだわっていると、
人は本来の存在意義すら
見失いかねなかったりします。
合理性、論理性をいくら突き詰めようが
論理の向こう側にある
形而上学的なものの
境界を決して越えられないのです。
ここが合理性、論理性、理性といったものの
限界と言えるでしょう。
ならばやはり人は感じるままに、
つまり感性を重用して生きるべきかと言えば
それもまた違う気がします。
個性が十人十色の集団の中で
個の体験が軸となる感性を基点に定めては
世の中は混沌としてしまいます。
それもあっという間に。
感情にどっぷり浸かって
溺れたままでいては
実際問題、
秩序の壁がそれを抑止するでしょう。
感性、直感、主観、こうしたものは
合理性、論理性などによって
ある程度方向付けがされないと
集団性と秩序を形成できないのです。
ここが感性などと言ったものの限界なのでしょう。
考える事と感じる事。
これは相反する事ではありますが、
同時に上手くバランスをとって取り扱えば
人生にとっても社会という集団にとっても
有益な事だと思います。
思考はそこに秩序を生成することを出来ますが、
それが形作られるには多くの時間を要します。
それに対し感性は非常に瞬発力が高く
思考をもって
何年も答えが見いだせない問題に対して
一瞬で解決に導くだけの力を持っています。
ただし、感性、直感は
万人にとって安定して行使できる能力ではないし、
そもそも直感からの答えを
論理で証明する事は
なかなか出来ません。
それに比べ論理思考は
実証を一つずつ積み重ねた
確固たる裏打ちがあります。
また、立証された経験、
つまり知恵は
インスピレーションすら
コントロールする事も可能だったりします。
さらには
そう言いながらも、
実は「知恵」だけでは
世界は動かないのです。
人は「知恵」で行動するのではなく、
「感性」によって
その行動を方向付けているものなのです。
いくら理性的、論理的に行動をしていると
得意げになっていたところで、
そう行動せしめている原動力は
「論理こそすべて」という
「主観」や「感性」なのです。
このように
論理を突き詰めると感性に行き着き、
感性を突き詰めると論理に辿り着く。
まさに表裏一体のものと言えるかもしれません。
従来の社会では
論理に偏った人と
感性に偏った人が
集団の中で両輪となって
より建設的な社会行動をとる事を
理想とする向きもありますが、
どうもこれも
二元論に帰結し
結局は対立構造を生み出すこととなり、
社会にとっては
決して有益な構造ではなかったようです。
こうして考えると
やはり人は、
自分ひとりの中で
「考える事」と「感じる事」を
等しく重用し
うまく両立させて生きていくことが
行き詰まらない生き方をする
方法なのかも知れません。
経験、体験により得た
「知恵」という思考を
論理立てて整理し
自分の中に蓄積しつつ、
ある時降りてきた
インスピレーションを
その「知恵」によって
常に効率よく展開できる状態、
これをひとりの人が
各々持っている事が大事なのではないかと思います。
それは二元性の統合です。
物事には二元性が付いてまわると
よく言われますが、
今の時代この両極のどちらかという
判断基準では
理解を超えてしまう事が多くあります。
というかそもそも
昔からそういうものだったのでしょう。
今いる視点から
もう一歩下がって俯瞰した
統合された全体性からその性質を見いだす、
これが世の真理を理解するために
必要な事なのではないでしょうか。